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感想「ハーバード白熱日本史教室」

 

北川智子さんの「ハーバード白熱日本史教室」日本史界隈では物議を醸している模様。http://t.co/x1ku9URi
書評にはならないけれど、 以下雑感。

1)この本は北川さんがハーバード在籍中に担当した二つの講義Lady SamuraiとKyotoの紹介第2、4章を軸に、ハーバードにたどり着くまで、そしてそこでの生活をエッセイ風にまとめた1、3、5章を配した新書。全190頁でライトな読み物という感じ。

Koji_hist 2012/07/30 00:32:53

2)編集方針もあったのだろうか、この本は学術論文寄りの新書と比べても「わたし」視点での叙述が多く、かなりポップに仕上がっていた。

Koji_hist 2012/07/30 00:34:09

3)山場の一つ、Lady Samuraiの授業紹介で繰り返される主張は、戦国有力武士達とその妻がペア・ルーラーとして機能しており、Samuraiらしさは男性特有のものではなく、女性もその構築に参画していたこと。(しかし商人や農民の場合はどうなるのか踏みこんだ記述は見られなかった)
Koji_hist 2012/07/30 00:35:18

4)「サムライらしさ」をgender-specificity から解放しようとするところに面白さがあるのかも知れない。しかし、先行研究が具体的に紹介されることも無く、この論点が北川さんが主張するように斬新かつ革新的であるかどうか、僕には判断が出来ませんでした。
Koji_hist 2012/07/30 00:36:52

5)独自性がビックリするくらい強調されているけど、これは米学生と日本の新書読者に対してのプレゼン/self-fashioningと読むべきかもしれない。いずれにせよ、北川さんの主張の学術的評価に関しては、彼女に学術論文を出版して頂いて判断するのが良いのではないかと思います。
Koji_hist 2012/07/30 00:37:56

6)内容に関して僕が「おやっ」と感じたのは、北川さんが自身の仕事を「印象派歴史学」というあまり聞き慣れないコトバで説明していること。(最終章5章esp. pp. 178-183)
Koji_hist 2012/07/30 00:38:35

7)北川さんは研究者を 「一つの話題を深く掘り下げて新しい発見にたどり着くカエル」と「鳥のように高い視点から物事を書き出すタイプ」に二分します。
Koji_hist 2012/07/30 00:40:24

8)ご自身は「一つ一つの対象物の輪郭線を固めるより」後者の鳥のような俯瞰的視点から全体像の把握を目指す「印象派歴史学」を追求したいとのこと。178−88頁
Koji_hist 2012/07/30 00:40:34

9)「細かな既存の研究を真っ白なキャンバスに埋め込んで、モネのように印象深いインプレッションを醸し出すこと」に北川さん本人の「学者としての興味」がある、とのことです。180頁
Koji_hist 2012/07/30 00:41:30

10) 北川さんが具体的に提案しようとする「印象」は「地球市民向けの日本史」とのこと183頁。おそらく彼女の言う「ペアルーラー」に見られるように、 限定的でありながらも女性が男性さながらに活躍した過去を持つリベラルな国ニッポンという印象を提供されたい、ということでしょうか。
Koji_hist 2012/07/30 00:42:20

11)僕の理解が的外れでないとして、このイメージが果たして本当に地球市民的であるかどうか、むしろハーバードや西洋の大学や政府諸機関において語られる、西洋的リベラル「市民像」の焼き直しに近くはないか、そうした問題も考慮すべきでしょう。
Koji_hist 2012/07/30 00:43:19

12)ここには、日本史の現代的意義を強調するあまり、現代のアジェンダを過去に投影してしまうという、時代錯誤=アナクロニズムの危険性が潜んでいるようにも感ぜられます。
Koji_hist 2012/07/30 00:45:16

13)北川さんは史料と歴史的事実をもとに研究をしていると書かれています。しかし、現代の視点に立脚して過去のストーリーを再編集しようとした場合、都合のいい史料を取捨選択し、それらを都合のよい「読み方」をしてしまいがちだ。北川さんの物語にそんな危険性はなかっただろうか。
Koji_hist 2012/07/30 00:47:13

14)かく言う僕もオーディエンス次第では自分の研究をCSRの前史という風に大袈裟に括ったりもする。その点僕も同罪との謗りを免れないかも知れない。つまり、北川さんの新書には、僕の興味とも連続する大きな問題が潜んでいるようだ。
Koji_hist 2012/07/30 00:48:19

15)時代に淘汰されないような本格的な歴史の全体像やナラティブを描くにはどうしたらよいのか。現代的意義を強調しようとすると、すべからく時代錯誤に陥ってしまうのか。つまりグランドナラティブの構築可能性と歴史学の社会的意義という二つの問題だ。
Koji_hist 2012/07/30 00:49:29

16)若手歴史研究者として僕が思うのは、カエル的に掘り下げる作業の重要性だ。その次元で具体的貢献を積み上げることで初めて、有意義な鳥瞰図が描けるのではないか。 そうでないと、結局これまでの成果に違う名前を与えるて、独自性を叫ぶような印象操作とも似た作業に堕する恐れすらある。
Koji_hist 2012/07/30 00:50:02

17)また個別具体的な次元でかなりの研究をやっておかないと、そもそも現代的興味を単に過去に押し付けているのか、それともthick descriptionを積み上げて行ったら現代と驚く程似たような現象が見つかったのか、その両者の微妙な判別も出来ないだろうと思う。
Koji_hist 2012/07/30 00:50:36

18)つまり、(北川さんの言う)カエル的な独自の仕事抜きに、新しい日本史(や西洋史)を紡いだり、歴史学の現代的意義を引き出すことなんて結局出来ないじゃないか、ということです。この問題について北川さんはどう考えるのでしょうね。少し興味があります。
Koji_hist 2012/07/30 00:52:44

19)しかしこれは大きな問題です。歴史学業界全体で考え、かつ試行錯誤を繰り返し、ノウハウを蓄積出来たら良いだろうと感じます。
Koji_hist 2012/07/30 00:53:06

20)こうした重要な問題群について考えるきっかけを提供している点で、北川さんの新書は一読の価値があると言えそうです。
Koji_hist 2012/07/30 00:54:07

20)こうした重要な問題群について考えるきっかけを提供している点で、北川さんの新書は一読の価値があると言えそうです。
Koji_hist 2012/07/30 00:54:07

21)追記:それ以外でもKyotoの講義紹介におけるアクティブ・ラーニングの説明は白眉でした。グループワークで学生に京都についての地図やポッドキャスト、映画の作成機会を与えたとのこと。その記述は、中高大学問わず、人文学を教授する人はヒントが得られるかも知れません。 終わり
Koji_hist 2012/07/30 00:54:54

21)追記:それ以外でもKyotoの講義紹介におけるアクティブ・ラーニングの説明は白眉でした。グループワークで学生に京都についての地図やポッドキャスト、映画の作成機会を与えたとのこと。その記述は、中高大学問わず、人文学を教授する人はヒントが得られるかも知れません。 終わり
Koji_hist 2012/07/30 00:54:54

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