— Still thinking. . .

ブリティッシュ・アカデミーで教わったプレゼンスキル(1)

数日前、ブリティッシュ・アカデミーでコミュニケーションについてのセミナーに参加してきました。このアカデミーはイギリスの人文社会科学を司る学術団体で、日本学士院のように世界的に著名な研究者がフェローをしているほか、若手・中堅の研究支援もしている団体です。コミュニケーションセミナーには僕のようなポスドクの人が20人弱来ていました。講師は元BBCの方、丸一日で結構疲れましたが、プレゼンのしかたからプレス・リリースの書き方、インタビューを受ける際のコツなど、情報満載でした。備忘録も兼ねて印象に残ったポイントについて書いてみたいと思います。

1、オーディエンスに寄り添う。

どのような人達が聴いているのか。自分と同じ専門分野や業界の人なのか、それとも(近世イギリス史の僕の場合ならば)文学者なのか、経済学者なのか、心理学者なのか、それともアカデミアの外で活躍する友人達なのか、両親なのか。それに応じて、専門用語の使い方も変わって来るかもしれません。ここで講師のマルコムが強調したのは、上から目線になりすぎないこと。知的好奇心と一定の興味がある聴衆を想定することでした。これは僕の例になりますが、「饗宴」などのプラトンの対話編は難しい用語を駆使せずに複雑な魂や善く生きるといった問題について豊かな見方を提示しています。単純化しすぎず、複雑な内容もわかりやすく伝える(Simple without being simplistic)。具体的にはイズムや専門用語を必要最低限におさえるということがありますよね。

また、わかり易い尺度で物事を伝える工夫をすることも大切と学びました。例えば「1666年のロンドン大火は首都の700エーカーが消失した。」という際に、「ロンドン市街壁の内部およそ2/3、700エーカーを焼いた」と付け加えるだけでも損失の規模が想像しやすくなります。なんだ、当たり前だと思うかも知れませんが、結構色々な所で応用が可能です。例えば近世の医学の本の値段を説明する時には「当時の大工の賃金何日分」ということで想像しやすくなるかもしれませんし、「17世紀にイングランドで生まれた人のおよそ8人に1人は首都で働いた経験があった」と言えば当時のイギリスにおける首都の社会・経済的重要性をわかり易く伝えることが出来そうです。もちろんこうした尺度に辿り着くにはそれなりの想像力と下準備が必要になりそうです。そこに手間隙を惜しまない事がオーディエンスに寄り添うきっかけの一つになります。

しかしプレゼンをして「良い物語」たらしめる要素とは、以上のようなわかり易さだけではありません。次は「よき語り手」であること、ストーリーテリングについて少し書ければと思います。 (続)