— Still thinking. . .

ブリティッシュ・アカデミーで教わったプレゼンスキル(2)

2、良き語り手となること。

良いストーリーの要素は「驚き」と「サスペンス」の二つに収束すると言ったのはヒッチコックだといいます。このポイントをプレゼンテーションやその他のコミュニケーションでも考えるようにと教わりました。確かに発表の最初に驚きを伴うような引用やエピソードを持って来たり、またそこで答えを知りたくなるような問いをたてられると、続きが気になりますよね。今回は僕の知っている分野に引きつけて、こうした「物語」の要素について考えてみたいと思います。

近世史関連で驚きの要素を上手く使った作品と言えば、やはりSteven ShapinのScientific RevolutionとDavid ArmitageがBritish Atlantic World, 1500-1800に寄せた巻頭論文が思い浮かびます。

There was no such thing as the Scientific Revolution, and this is a book about it. (Shapin, Scientific Revolution, p. 1)

とか、

We are all Atlanticists now, or so it would seem from the explosion of interest in the Atlantic and the Atlantic world as subjects of study among historians of North and South America, the Caribbean, Africa and western Europe. (Armitage, ‘Three concepts of Atlantic history’, in Armitage and Michael Braddick (ed.), The British Atlantic World, 1500-1800 (2002), p. 11)

などは、驚きの要素があると共にアジェンダセッティングの力すらある様に思えます。(実際他の人が引用・言及したことで僕はこれらの作品に出会いました)。 こうした挑発的なオープニングはその分野のトップを走る学者だからこそ出来たのかもしれません。しかし、驚きや語りの要素はこうした「飛び道具」に限られた訳ではないと思います。例えば次のイギリス王政復古期の政治と錬金術についての論文のオープニングはどうでしょう。

Among the cargo unloaded on to the quays of London from the Fortune in October 1661 were thirty-six crates belonging to Nicaise Le Fevre. Exempt from import fees, barred against search —since they were supposed to contain delicate instruments and “spirits, oils, and essences which might be spoiled by opening” — the packages were whisked to St. James’s Palace. There Le Fevre, former demonstrator of alchemical operations at the Jardin du Roi, and now professor of chymistry and apothecary-in-ordinary to the royal family of Charles II, reassembled his laboratory.

When the king returned after the Revolution, he thus returned with an alchemist. This is something not reckoned with, then as now, when generalizations are made about the relation between the intellectual trends of the age and its political upheaval.  “After 1660″, writes Christopher  Hill, “everything  connected with the political radicals had to be rejected, including ‘enthusiasm’, prophecy,  astrology  as a rival system of explanation  to Christianity, alchemy  and chemical medicine. [...] J.A. Mendelsohn, Alchemy and Politics in England, 1649-1665, Past and Present, 135 (1992), p. 30.

最初の段落はわずか三文で合計88words。日本語なら400字詰め原稿用紙半分くらいですが、積み荷が厳重な警備のもと船着場に降ろされ、梱包されたオイルや実験道具が速やかにパレスに運ばれていく様子が具体的なフレーズ(cargo, exempt from import fees, barred against search, quays, St James Palace)や引用(spirits, oils, and essences)を駆使することで鮮明に描かれています。 たったこれだけのエピソードとも言えるかもしれません。僕も「へー、そうなんだー」くらいにしか思いませんでしたが、著者のメンデルスゾーンはこれを次の段落の最初の文で端的に要約し(the king … returned with an alchemist)、それをクリストファー・ヒルを含めた先行研究を批判的に振り返り、自分の論点を導入する足場として効果的に利用します。

では、もし著者が次のように書き始めていたらどのような印象になるでしょうか。

Contemporary evidence suggest that on October 1660, shortly after the Restoration,  the alchemist Nicaise Le Fevre’s goods were being transported from French court to St James’s Palace via a port in London. When the king returned after the Revolution, he thus returned with an alchemist.

この改悪版では具体性のある名詞やフレーズが不在なためオリジナルにある生き生きとしたシーンを伝える力、物語としての迫力がありません。原文にある「驚き」の効果もあまり出させていないような気がします。もう一度オリジナルを読むと、その要素が感ぜられるかも知れません。その驚きのミソは、錬金術を内乱期の政治的ラディカルリズムの産物と思っている読者に向かって「いやいや、そうとも限らないよ!」と言い渡すところにありそうです。

もちろん全ての論文やプレゼンがこうした物語的に始まるとは限りません。たとえばスティーブジョブズの有名なスピーチは必ずしも驚きやサスペンスでは括りいくい素晴らしさがあると思います。では何が彼のスピーチの素晴らしさや感動の出所なのでしょう?僕もこうして自問自答してみるまで考えてもみませんでした。。しかしこのように考えていくことで、ブリティッシュ・アカデミーで学んだ三つめポイントに行き着きます。それは

3、プレゼンのソムリエになること

です。それは批評家ぶってプレゼンの善し悪しを判断するということではないだろうと思います。むしろ日頃から多種多様なメディアとコミュニケーションに触れ、その際に「ワクワクすると自分が感じたのはなぜだろう?」とか「これは参考になるな」とか 「これは反面教師になるな」といったことを考え、時にはメモをとり、自分の伝え方に活かしていくことだろうと思います。BAのワークショップで講師をやっていたマルコムは、自分の予定帳の最後のページからアイデア帳として使っていると言っていました。僕もやらなきゃですが、例えば色々なセミナーや映画、ドキュメンタリーなんかを観た時なんかに得たヒントを蓄積出来る様にすると良いのかも知れませんね。